夢を見た。
門前町の夢である。
神社への参道沿いに細長く形成されたその町は、歴史の滲みた土産屋などがところせましと軒を連ねて、参拝客でごった返し、あたかも縁日の趣を呈していた。
――わが国目下の情勢では顰蹙を買うに相違ない、そんな光景の只中を。
どういうわけか、私は愛猫を肩に乗せ、彼女が滑り落ちないように前傾姿勢で恐縮しながら歩いていたのだ。
私の家では伝統的に室内飼いをモットーとしているものだから、現実の彼女はすっかり外界恐怖症を罹患して、玄関が開け放たれていようとも決してその先に進もうとしない。
よしんば抱きかかえて出たとしても、雷に打たれたように硬直し、目を丸くして爪を立てるのが関の山だ。
あんな風に人波の中でも落ち着いて喉をゴロゴロいわせることなど、決してないと言い切れる。正しく夢ならではの沙汰であろう。
時折彼女を愛撫しながら、提灯に照らされた街を歩いた。
水ヨーヨーをビニールプールに浮かべている店がある。かと思いきや、生簀の中に芸者二人が正座して、寄っていきなんしと客を手招きする店が。
水深は、正座した彼女らの膝のあたま程度まで。だいぶ浅いといってよく、その浅瀬の中を悠々と、ドジョウどもが我が物顔で遊弋している。
――ははあ、ドクターフィッシュだな。
と、正体不明の合点があった。芸者の接待を楽しんでいるあいだ、足元ではドジョウどもが角質等の不要物を喰ってくれ、身も心もすっかりリフレッシュさせられるという寸法か、と。
むろん、ドジョウにそんな習性はない。
このあたりは明らかに、最近の読書――『外人の見た日本の横顔』の影響だろう。旅行者の語るゲイシャガールの魅力について、あまりに再三聞きすぎた。
かなり心惹かれるものを覚えたが、参拝が先と誘惑を断ち切り、歩みを再開。
途中、短いながらも隧道を通った。
素掘りの情緒あふるる道であり、どこからか地下水が洩れているのか、地面がしとどに濡れていた。
ここを抜ければ、
圧倒的な存在感を伴って、重厚な木造建築が私の前に
ところが、これはどうしたことか。守護獣である狛犬が、一匹だけしか居ないのである。私から見て右側の、「阿形」の方が忽然と姿を消している。
開けた先には、地下へと続く階段が。女神の騎士ロートレクなら、炎に向かう蛾のようだと
然り、『風来のシレン』や『トルネコの大冒険』でお馴染みのアレである。探索を進めるうち、鞍馬天狗という物理攻撃の通用しない強敵が出てきて、アイテムが枯渇しかける危機に蒼褪めたところで目が覚めた。
そういえば『風来のシレン』シリーズにはコッパという喋りイタチが登場し、無口な主人公に代わって周囲との折衝をこなしてくれる、よき女房役がいたものである。
もう少しダンジョンの深みに潜って、たとえば伝説の民の隠れ里にでも行き当たったなら、わが愛猫も気を利かせて人語を喋り出したりしたのだろうか。そう思うと、ちょっともったいないようなことをした気分になる。
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