ドイツ第一の文豪にしてナポレオンすらその愛読者にせしめた男――ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。
あるとき彼は知人であるシュテーデル夫人に手紙を宛てて、その中で、
文字の表面の意味だけでなく、その底に籠る味をさえ察し得るような素養の豊かな人との音信には、概して難解な事を書いておくのが最も賢明だ。そうすると友人には本当の文意を掴む自由を完全に与えることになる。
みずから見出した対人技巧の秘訣の一部を、斯くの如く披瀝した。
思わず膝を打ちたくなるほどあざやかに的を射た指摘といっていい。人間にとってはものを考えること、それ自体がこの上なき快楽なのだ。発達した脳髄を――それこそ他の一切の生物の追随を許さぬ域まで高度に発達した脳髄を――汁が漏れ出るほどに全力稼働させる時ほど、生き甲斐を感じる瞬間はない。
斯様な特性を、少なくとも私の知る限りに於いてもっとも簡明に解説してくれたのは、戦前中央大学で教鞭を執っておられた小林一郎なる人物で、彼の講演に曰く、
野蛮人の状態を観ると、野蛮人でも、自分の智慧を使ふことが好きである。極く程度の低い蛮人でも、皆自分で頭を働かすことが好きである。之を活きんが為に、そうして居ると云ふ風に思ふのは間違ひである。決してそれは活きる為ではなく、智慧を働かせる其事が満足なのである。(中略)要するにどんな生活程度の低い者でも、活きると云ふ事だけでは満足しない。好んで物を工夫する。さうして自分の智慧を使ふのである。(中略)何となしに総ての問題を実用に関係なしに研究すること、総ての物を単に研究すると云ふ事が、人間の本然の性にあるのである。本来の欲求の一つであるのである。(大正十三年、『文化大学十六講』274~275頁)
だからブラックホールが史上初めて撮影されたとき、「これが一般の方々にどんなプラスがあるのか教えて下さい」などと抜かした某記者などは、そのまま自分の人間理解が如何に浅いか表白しているものであり、愚の骨頂と言う以外にない。
そこをいくとフロムソフトウェアなどは、このあたりの本能を抑えること空恐ろしいばかりであって、発売する作品という作品が、悉く想像の羽を伸ばしやすく出来ている。
「フロム脳」なる俗語を生んだことからも、その特性は明らかだろう。『アーマードコア』『デモンズソウル』『ダークソウル』『ブラッドボーン』『隻狼』、どれもこれも世界観の作り込みと、それをゲーム内で表現する巧みさに関しては神懸かり的だ。だから発売から十余年を経てもなお、ストーリーに対して新たな解釈を試みる者が当たり前のように出現する。
皆、ゲーテが述べたところの、「本当の文意を掴む自由」を存分に謳歌しているのだ。
闘争の歓喜と思考の悦楽を両立させる。その相乗効果たるや戦慄的といっていい。フロムソフトウェアが日本ゲーム会社の中でも冠絶した存在として世界に名を轟かせたのは、蓋し必然であったろう。
加えて言えば、『隻狼』は例外に措くとしても、「主人公が喋らない」という点もまた、この「想像のしやすさ」に一役買っていると思われる。
私事になるが、主人公が喋るゲームと喋らないゲームとでは、私は断然後者が好きだ。
だから『地球防衛軍』シリーズや『エースコンバット』シリーズ、それに『セブンスドラゴン』シリーズなども、私の愛してやまない作品である。
もし、「PSP最高のソフトを一本選べ」と言われたら、私は迷わず『セブンスドラゴン2020-Ⅱ』の名を挙げるだろう。それほどまでに、アレの完成度は高かった。選択肢以外で言葉を発さないにも拘らず、主人公の存在感たるや極めて大で、名実ともに「主人公」をしていたからだ。
ああいうゲームが、もっと増えてくれれば嬉しいのだが。
蛇足が長くなりすぎて、そろそろ畸形の観を呈して来たのでこのあたりでキリにする。
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