穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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不義密通の報い也 ―火刑、八つ裂き、生き晒し―

 

 時は中世ヨーロッパ。愛妻家で知られたとある貴族は、しかし妻の浮気を知るに及んでそれまでの性情を一変させた。
 彼は妻を捕らえると、その歯を一本残らず引き抜いて、治療もせずに壁の中のわずかな隙間に監禁し、そのまま死ぬまで放置したのだ。


 身じろぎするだに一苦労な狭苦しい空間で、闇と激痛に蝕まれながら衰弱していった妻の心境たるや、想像するに余りある。


 壁の中からくぐもった悲鳴や泣き声がどんなに聞こえて来ようとも、貴族の瞳は乾いたままで、決して解放しなかった。


 鬼であろう。
 愛を裏切られた場合、人はしばしばそういうものに変化へんげする。
 だから不義密通の刑罰は、秋霜烈日をきわめる場合が非常に多い。

 

 

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 古代デンマークは殺人に対しては基本罰金刑で済ませたが、姦通には死刑を課した。


 古代サクソン人はこれに輪をかけ、まず間男を生きながら焼き殺し、その火が止むと今度は姦婦を焼け跡の上まで引き摺り出して、肉の焦げた臭いがいちばん濃厚に漂っているその場所で、彼女を絞め殺したそうである。
 ただ殺すだけでは飽き足らない、相応しい苦しみを受けて死ねと、憎悪の根深さが否が応にも伝わって来よう。


 エルサルバドルの先住民、ピピル族の姦通事件の裁き方は一風変わったものであり、姦婦を罰さず、間男に対してのみ刑を下す。
 死刑か、姦婦の夫の奴隷になるか、二つに一つだ。


 ところが同じエルサルバドルの先住民でありながら、ピピル族とは反対に、間男を罰さず、姦婦のみに刑を下す部族があるから面白い。


 その部族では裏切りを受けた夫みずからが刃物を手に取り、不貞な妻の鼻や耳を削ぎ落とすのだ。
 虎眼流で言うところの「伊達にして返すべし」藤木源之助以下虎子たちは道場の剣名を高めるためにそう・・したが、かつて中米に存在したこの部族では専ら再犯防止の処置だったらしい。

 

 

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 古代メキシコ人は姦通に八つ裂きで報いたし、インドではバラモンの女と通じたクシャトリヤには罰金と、それからロバの小便を頭に注ぎかける決まりであった。


 インカ帝国も負けてはいない。
 伝承によれば往古南米に栄えたこの国で、あるとき王妃の不義密通が露見した際の騒動ときたら物凄かった。間男が火炙りにされたのはもちろんのこと、彼の両親、親族さえもが殺されて、王の怒りはそれでも熄まず、最終的にはその人々の住居までもが「汚らわしい」との理由から打ち毀された。


 マヌ法典、ユダヤ経典中に於ける規定、我が国の江戸時代に見られる判例等々、まだまだ枚挙にいとまがないが、なにやら食欲の減退を感じてきたので、今日のところはここで一旦切り上げる。


 まあ要するに、人の女には手を出さないのが賢明だ。

 

 

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