一九三六年、アメリカのとある医学雑誌にとんでもない実験論文が載せられた。
タイトルは「正常鳥類と大脳摘出鳥類に於ける睡眠及び覚醒の記録」。
鳥類とあるが、より詳しくは鳩を用いた研究である。
(Wikipediaより、カワラバト)
手順はこうだ。まず正常な――何の外科的措置も施していない成体の鳩を籠に入れ、様々な刺戟を彼の五官に加えることで、それが睡眠と覚醒とにどう影響するか確かめる。
外的要因としては光線が、内的要因としては飢餓状態が、それぞれ最も顕著な反応を示したという。
さて、ここまでは前置きだ。いよいよ本番の始まりである。今度は外科的措置により、大脳をそっくり取り除いた鳩を使って同様の実験を繰り返す。
するとどうだ、頭からっぽにされてから僅か三時間の後にはもう、睡眠と覚醒の正常な周期の回復が見られた。
(オハイオ州クリーブランドに存在した球形病院。糖尿病患者を主に収容したという)
ばかりではない。二三ヶ月も経つころには、光線や飢餓といった刺激に対する反応さえも、脳無し鳩と脳有り鳩とでまったく同じ現象を呈するに至ったという。
この結果を受け、実験を主導したR・A・レムルクなる人物は、「睡眠を支配する機能は大脳皮質外にある」と結論付けたものである。
しかしながらそれ以上に私が衝撃を受けたのは、脳を奪われておきながら、べつだん衰弱も発狂もせず、息をし飯を喰いスヤスヤ眠り、少なくとも三ヶ月以上は生き延びた鳩が確かに存在したという、そちらの事実の方だった。
『フォールアウト ニューベガス』の主人公、キャリア・シックスじゃあるまいし。そんな馬鹿なと思ったが、しかしよくよく考えると、首を切られておきながら十八ヶ月も生存した不死身のニワトリ、「ミラクルマイク」なんてのも居た。
(『フォールアウト ニューベガス』より)
すると、有り得る話なのか。鳥類にとって脳とはさまで重要な器官でないのか。いやいやまさか、だがしかし――。
何はともあれ、ひどく玄妙な気持ちにさせられたのは確かであった。
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