ペンギンの肉の喰い心地が、杉村楚人冠の随筆集『へちまのかは』に載っていた。
といっても、文人である楚人冠みずからが極地に赴き二足歩行するこの鳥類どもをふん捕まえて掻っ捌き、賞味したというわけではない。彼はその卓越した語学的才能から翻訳業者の顔も持ち、ために方々から洋書を持ち込まれること頻繁で、うず高く堆積したその中に、フレデリック・クックの『南極探検記』があったのである。
ロバート・ピアリーかフレデリック・クックか。北極点に到達した最初の男はいったいどちらか、現代に及ぶも未だ結論の出ない議論であり、そのことばかりで名が知れているクックであるが、どうやらこのアメリカ人探検家、南極にも足を延ばしていたらしい。
なにぶん、一切合切が万年氷に鎖されている南極のことだ。
初期の探検家たちにとって、ペンギンは貴重な生肉の供給源に他ならなかった。
ところがいざ狩猟して喰おうとすると、これがもの凄く油臭い。楚人冠の訳文から抜粋すると、
牛肉と臭い鱈の肉とカンバス鴨の肉とを一つの鍋に入れて、血と肝油とで、ぐちゃぐちゃに煮たやうな味(299頁)
とのこと。
あんな愛らしい見た目をしていて、中身は相当にあぶらぎっていたらしい。
まあ、よくよく考えてみれば昔はペンギンを蒸して絞って油をとる装置だってあったのだから、これは当然のことだろう。
だからペンギン肉を喰らうには、
いったん水煮して脂肪を抜いて更に煮直すと、初めてやや食ふに堪へる。(同上)
と、ひと手間挟む必要があったそうだ。
ペンギンを味噌煮にして喰ったという白瀬南極探検隊の方々も、やはりこの工程を踏んだのだろうか。
それとも日本人と欧米人との味覚の差、クックが嫌がった油臭さも、白瀬陸軍中尉にとっては存外珍味として好ましく感ぜられたやもしれぬ。
(Wikipediaより、白瀬
興味深い。
甚だ興味深いところだが、数々の国際条約が立ちはだかる現在、検証することは叶わない。
残念だ。ここはひとつ、鯨肉でも食って気を紛らわすこととしよう。
つい先日抜き取った血を、補充するのにも丁度いい。
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