バナナを用いた酒の醸造方法を思いついた発明家が、かつて居た。

彼は長山正太郎。言うまでもなく日本人だ。アイディアの
それも尋常のバナナではない。
村の八百屋が一山十銭、つまり捨て値で置いていた、売れ残りのバナナを、である。
身近な表現を借りるなら、「賞味期限切れ寸前で割り引かれている品」とでも呼んでおくのが、たぶん、おそらく、相応しい。当然、皮は変色しきって、墨汁にでも浸けたが如くどす黒い。
が、見た目に反して、味はなかなか美味だった。
(Wikipediaより、酒匂川)
瑞々しい真っ黄色なバナナより、なにやら奥深い風味があって、長山の口にはむしろ、断然、
──妙な話もあるものだ。
不思議の感に打たれるがままつらつらと、爛熟しきったバナナの皮を矯めつ眇めつするうちに、そのところどころにカビの生えていることに、いつしか長山、気が付いた。
とくれば元々、水産物を利用した発酵食品開発を仕事にしていた彼である。
研究心に火が着いたのは、自明の理といっていい。
「私は斯うした自然の導きに因って、果皮製麹法に精進したのであるが、最初の数回は糀らしいと云ふだけで、醸造原料には不適当のものだったが、失敗を重ねるに従って優良化し、遂に普通の甘酒糀の様に雪の様な白い、いゝ花を皮一面に繁茂させる方法に成功したのである。愈々果麹に成功したので、今度は仕込みに着手した。その仕込方法は、バナナ十貫匁より採取した果皮凡そ四貫匁を切断して蒸きょうして一度乾燥をなし、更に短時間蒸きょうしたものに種麹五匁を散布し、普通の糀蓋に入れ麹室の中に収めて室温二十五度位を保たせ、約三日目に室出をする。此の果麹に前に分離してある果肉六匁の圧砕したものを混合して仕込桶に入れ醗酵させるのである。

此の場合酵母を添加して醗酵を助成させ、毎日数回諸味を撹拌する時は約一週間で主醗酵が終る。此の時に酒精三封度を添加し、尚十日乃至二十日間放置して熟化させる。そして約八斗のバナナ酒が生産されるのである」
栗に、バナナに、次はいったい何を原料とした酒が我が眼前に現れ来ることだろう。
酒に対する日本人の情熱は、つくづく侮れないものだ。
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