1926年夏である。合衆国はシカゴにて、国際警察署長会議といったものが
そう、シカゴ。
場所の選定の段階で、ひどい皮肉を聞かされている気がしてしまって仕方ない。

何と言っても、ほら、アレだ。シカゴ・タイプライターと、
治安の悪さと屠殺場、どっちにしろ血腥い案件で四方に知れ渡っていた、つまりはそういう場所である。
そんな「悪の巣窟」に、先進諸国の警察のお偉いさんがゾロゾロと集結したわけだから、奇観と云えばなかなか奇観であったろう。

会議の席上、提出されたデータには、アメリカ合衆国内の最近犯罪情勢を概括したモノもある。
これがなかなか面白い。なんでも過去三十五年でアメリカは、その包括せる人口に九割増加を来したが、犯罪発生件数は二倍どころの騒ぎではない、十二倍の激増である。強盗、詐欺の両横綱を筆頭に、各種犯罪被害によって「良き市民」らが年間失う財産は、実に三十億ドルを突破して既に久しい、と──。
禁酒法に禍された部分とて少なからずあるのだろうが、それにつけても異常な数値。こんなだから当節ニューヨークに在った『大阪朝日』の特派員、北野吉内の如き者に、
「恐ろしい国である。恐怖にみちた大都会である。日々夕刊を覗くと、芝居帰りの某婦人の自動車が襲撃されて、肌身につけてゐた時価十万弗の宝玉類を強奪されたとか、午前十時、人波の動き始めたブロード・ウェーの一商店に何食わぬ顔で買い物に来た男が、時分はよしと突如ホールド・アップに早変わりし、店員一同を縛り上げて、五万弗在中の現金袋をフンだくり、店頭に待たして置いた自動車に飛乗って逃げやうとする刹那、警官に見つかったので有無をいはずピストルで射殺していったとか、十万弗もする貴重な代物や五万弗の金袋がやたらにその辺にあるのにも驚くが、かうした血腥い大胆不敵な犯罪の生活難の挙句の自殺の日本の新聞に現はれる以上の頻繁さを以てニューヨークの新聞紙を賑はすのには、たゞ呆れ驚く外はない」
斯様な記事を認められてしまうのだ。

(『ディヴィジョン2』より)
およそ喰うに困るほど生活に切羽詰まった場合、日本人は粛々と自己の始末に赴くが。
アメリカ人なら他人の身ぐるみ剥いででも、──犯罪に手を汚そうと自己の生命を延ばさんとする。
現代でもなおある程度、当て嵌まりそうな構造であり、差異だった。
太平洋を挟んで東に他殺のメッカの国があり、自殺のメッカの島国が西にあるかと思惟すると、ゾッとしない話だが。
「平和の海」の名前が泣くに違いない。
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