穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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そして桂園へ…


 ポーツマス条約の内容に怒り狂った国民が、その憤懣を日比谷にて火遊びすることにより発散したあの・・当時。


 政友会は方針として、これに便乗せんとした。

 

 

Rikken Seiyukai Headquaters

Wikipediaより、政友会)

 


 群集心理を煽り立て、火の手をもっと拡大し、政府に失態の上塗りをさせ、以って他日の自分たちの天下取り──政権奪取に役立てようとしたわけだ。


 政党の本能に忠実な、いかさまらしい・・・策だろう。良心の疼きを感じる必要は更に無い。すべては超然内閣の魔の手から国の操舵をもぎ取って、本来あるべき処へと、国民へと還すため。きらびやかな大義の下に、一切の謀略は正当化される。政党政治家たる者の、基本も基本な思考法といっていい。


 ところが意外なことが起こった。叛逆である。あにはからんや政友会の内部から、


「そんな陋劣な真似が出来るか」


 十八世紀の清廉居士を彷彿とする口吻で、抵抗する者が出た。


 総裁だった。


 こともあろうに二代目総裁・西園寺公望その人が、定まりかけた党の姿勢に真っ向から反駁し、


ポーツマス条約の内容は、疲弊しきった今日の国情からみて已むを得ぬ」


 との、民心を寧ろ諫めんとする宣言を、公式に発表せんとした。

 

 

(『cyberpunk2077』より)

 

 

(なんということだ)


 迷惑したのは幹部連中。彼らはこぞって西園寺を止めようと、


「そんなことを言っては大変です。われわれは血祭りにあげられる。波には乗るもの、立ち向かうべきではありません」


 このような意味のことどもを、それこそ袖を捉えんばかりの剣幕で盛んに述べたそうである。


 が、総裁閣下は一徹だった。


「いや、それはいけない」


 彼らを言下に退けて、更に語を継ぎ、


「自分は政党の首領である。しかし国家の為に政党の首領をしているのである。国家の為ならば政友会の二つや三つ、叩き潰してもよいではないか」


 静かな声音で、しかしえげつない威力を秘めた超大型爆弾を、党員どもの頭上へと真っ直ぐ投下してのけた。

 

 

 

(viprpg『世界が終わるまでは』より)

 


 ──これで皆んな恐れ入った。非常に温厚篤実な人だとばかり思ってゐた連中が、この一言にすっかり驚いてしまった。

 


 しみじみと回顧に浸りしは、「三叉」こと竹越與三郎。


 西園寺公望の側近として永く仕えたこの男にも、くだんの景色はよほど印象的であり。


 政治家としてあるべき亀鑑、一種理想像として、内心大いに崇敬し。


 是非後世に伝えんと、運筆の業に勤しんでいる。

 


「西園寺公は国家といふことを非常に心配しておゐでになり、同時に皇室といふことを大切に思ってゐる。さうしてこの皇室の御安泰と国民の幸福といふことを結びつけて、これで政治をやるのほかないといふ心持で総てのことをやり出した。然るに彼は、自分は皇室の忠臣だなどといふことを一言も言ったことはない。自分は愛国者だなどといふことを一度も言ったことはない。しかしその心持は、さうして彼の政治は、恰も老船長が地図を見て進路を考へ、さうして舵を定めるやうに──而もその老船長が額に青筋も立てないで、しづかに、煙草を咥へながら船を進めて行ったといふやうなやり方でやって来たのが、彼の政治の美点である」

 

 

Japanese Marquis Saionji Kinmochi

Wikipediaより、西園寺公望

 


 竹越の網膜に投影された「最後の元老」の輪郭は、まずこのようなモノだった。

 

 

 

 

 


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