穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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丹波栗とボタン鍋


 丹波の美味い土地。


 その美味い栗をたらふく喰って育つから、必然としてイノシシもまた美味くなる。


  雪がちらちら丹波の宿に、
  シシがとびこむぼたんなべ


 と、地元の謡──デカンショ節──にある通り、旬に突っつくボタン肉は絶品で、その名声はひとり国人の間ばかりにとどまらず、遅くとも昭和の中期なかばごろには確実に、遠く県境の向こうまで轟き渡っていたそうな。

 

 

Botan nabe by woinary in Ginza, Tokyo

Wikipediaより、ボタン鍋

 


 だから然るべき季節になると、丹波各地の駅舎という駅舎には「出荷待ち」のイノシシどもがゴロゴロし、一種奇観というべきか、兎にも角にも容易ならざる光景を呈していたということだ。

 

 ちょっと想像しただけで、獣臭が鼻腔の奥に充満し、粘膜を痛めつけてくる。

 

 野生動物の宿命だった。

 

 

Old rail track of Sasayama Line-2

Wikipediaより、篠山線 橋梁跡付近)

 


 且つまた丹波は腕のいい杜氏どものメッカとしてもさんざん聞かした場所である。


 この日本でも有数の酒造職人集団が、せっかくの「地元の名産品」をうっちゃっておくわけがない。


 栗を用いて酒を醸す試みが、それなりに古くから行われていた。


「原料はクリ、モチ米、しょうちゅうで、アルコール度数は二十一・九。クリのかおりが楽しい。マロン・リキュールとして輸出の話も進んでいる。丹波焼のしゃれた容器にはいって、五百五十㏄三百五十円と、例の『日本の鉄道』の篠山線の章の中には値段まで含めた詳細なデータが載っている。


 こいつを「お伴」にボタン鍋を突っつけようものならば、──それはさぞかし素晴らしい感覚体験となってくれることだろう。まさに垂涎に違いない。

 

 

丹波焼に詰められる栗酒)

 


 まったくの私事で恐縮だが、筆者わたしは今日までの人生でイノシシ肉を喰った経験ためしが一回もない。


 馬肉、鹿肉、鯨肉ならあるのだが、ボタンとだけは不思議と縁が薄かった。


 いつか好機にめぐり逢えれば幸いである。

 

 

 

 

 


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