穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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夢路紀行抄 ─不法侵入─


 夢を見た。


 返り討ちにする夢である。


 自宅に不法侵入してきた盗人を、逸早くそれと察知して扉の陰で待ち構え、ひょいと出てきた無防備な頭部めがけて鉄パイプを振り下ろし、撃退に成功したところまでは上出来だった。

 

 

(viprpg『雷魔法が悲惨な目に遭うksg』より)

 


 目から火花を舞い散らせ、ほうほうの態で逃げゆく賊の無様さは、愉快痛快最高に晴れやかな気分になれたのだ。


 ところがほどなくその盗人が、復讐に燃え武装して、しかも仲間を引き連れて、三人がかりで戻って来たからかなわない。まったく閉口の至りであった。


 むろん、今度も地の利を活かしてさんざんに抵抗したものの、しょせん多勢に無勢の哀しさ、最終的には敗北し、猿轡を噛まされた上、手足を縛り上げられるという「虜囚の憂き目」そのままを見た。


 これからおそらく待ち受けるだろう凄惨な拷問を予想して、恐怖が絶頂に達したあたりで目が覚めた。

 

 

(『Dead Space』より)

 


 たぶん前日、帰るとまるで見知らぬ女が部屋に居たとかなんとかで、警察に通報するという常識的な対応をした44歳男性のニュースを目にしていたのが、斯かる悪夢を生起せしめた淵源だったに違いない。


 まあともかくも、目覚めて後も筋書きをきちんと憶えていられる夢は本当に久しぶりである。


 中身はさておき、そのこと自体は大いに喜ぶべきだろう。


 ときに盗人相手の自衛については、山本権兵衛、薩摩生まれの彼の御仁にも、それに類する洒落た体験が附随いている。

 

 

Yamamoto Gonnohyoe 2

Wikipediaより、山本権兵衛

 


 せっかくの機会、例の古本『偉人権兵衛』の頁より該当する箇所を掲げて、此度こたびの〆とさせてもらおう。

 


「明治三十一年頃のことである、ある夜、草木も眠る丑満時うしみつどきといふ午前二時、けたたましく伯邸の玄関の戸を叩いて
『火事です、早く起きて下さい』
 と連呼するものがある。家人が起きて耳をすますとそれらしい気配も聞えない。これはおかしい。
 強盗などはよくこんな手を用ゐることがある。戸締の厳重な家だと容易に侵入することができない、火事だと驚かしておいて、あわてゝ戸を開けるや否や、だんびらを突きつけて凄い文句をならべる奴である。万一それではないかと思ふと、うっかり戸も開けられない。
 そこへ出て来たのが権兵衛である、見ると、弁慶の七つ道具ではないが、片手に刀、片手に棍棒を持ってゐる。これに勢ひを得て家人が戸を開くと、何んのこと、強盗ではなく正真正銘、帯剣いかめしいお巡査まわりさんだった。
 権兵衛はそのまゝ座敷に引返して窓から覗くと、空が真紅に燃えて正しく火事とわかった」

 


 巡査はさぞかし胆を潰したことだろう。


 たっぷり焦らされた挙句、やっと扉が開いたと思えば完全武装薩摩隼人とご対面する破目になったわけだから──。

 

 

Vice-Admiral Baron Yamamoto ca 1904

Wikipediaより、1904年の山本権兵衛

 


 権兵衛の方は早とちり、筆者の方は一片の夢。


 あちらもこちらも過ぎてみれば他愛ない、肩すかしに終止して、しかもそういう展開でああよかったと胸を撫でおろせる点で、おそらく事情は一致している。

 

 

 

 

 


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