穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

※当ブログの記事には広告・プロモーションが含まれます

水晶の国


 水晶は、甲州人が他国に誇れる稀少なる名産品の一である。


 江戸天保の昔時には、なんと全長一尺三寸にも及ぶ極めて大きな結晶を幕府方に献じたと、そういう逸話がなおも根強く伝えられているほどだ。

 

 

 

 

 一尺三寸。


 身近な単位に換算すると、およそ49㎝、ほぼほぼ半メートル程度。


 とてもにわかに信じられない、眉をつばきで濡らしたくなる、誇大広告を予想するべき話であるが、だがしかし。──甲斐の御山が時として途方もない「大物」を、その胎内にかくしているのは、事実しばしば在ったこと。


 例えば明治十二年には、甲州御嶽金櫻神社の神職である相模家所有の山の中から「碁盤を製し得るほどの」水晶塊が発見されて、土地の騒ぎとなっている。


 これなどあるいは天保時代の献上品の結晶と、規模に於いて伯仲し得る逸品だったことだろう。

 

 

Kanazakura shrine №1

Wikipediaより、金櫻神社)

 


 規模のみならずに於いても、なかなか侮れない模様。こちらの面に関しては、工学博士の古賀逸策が墨付を与えてくれている。

 


水晶の原石は波長を標準化したり安定させるにはなくてはならぬものである、現在ラジオが非常に民衆化して聴取者が増し無電も受信者が多くなれば発信者の責任は益々大ですが兎角波長の固定はむづかしくこの水晶を利用しなければなりません、従来は全部舶来品によってゐたが中々高価で五銭玉二つ位の大きさで百円以上もする有様なので、需要の増す今日内地品を利用しやうと思って甲州産を検べたのです、山梨県の石はよい石なのできっと舶来品に代へることが出来ると思ふ

 


 日本で初めてクオーツ時計を製作つくった男、水晶という鉱物の可能性の追究に、同時代で誰よりもおそらく余念のなかった者の、昭和二年の報告であり、展望だった。

 

 

Koga Issaku

Wikipediaより、古賀逸策)

 


 先日の記事の余熱によって、──「回顧は生気を蘇へらせる。故郷を、幼時を、祖国を、その歴史をかへりみる心には神の姿が描かれてある」との言葉に当てられ、筆者わたしとしても己が故郷を顧みる気に、「お国自慢」をやりたくなった。


 本稿はつまり、そんな衝動の産物である。

 

 

 

 

 


ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
この記事がお気に召しましたなら、どうか応援クリックを。
 ↓ ↓ ↓

にほんブログ村 本ブログ 古本・古書へ