穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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大空魔術


 空中戦艦。


 なんとロマンに満ちた響きか。


 一九〇三年、ライト兄弟が初めて空を飛んだとき、その発動機のスペックはものの十二馬力を出なかった。


 ところがそれからたった十年、欧州大戦の初頭には、はや百馬力が出現し、更に十年を俟ってみたならどうだろう、一千馬力の大台を人類は突破したではないか。

 

 

(飛行機の無線操縦実験)

 


 ほとんどまるで指数関数的である、あまりの進化の素早さに、冷静で居ろという方が却って無理な相談だ。更に十年後を想像おもい、人々は大いに期待した。その期待が昂じるあまり、壮大華麗な白昼夢を集団で目撃したとして、なんの不思議があるだろう。


 大日本帝国海軍、航空参謀、松永寿雄なる仁も、大正十二年にはやはり、


 ──この調子なら遠からず、空中戦艦が出現する日が来るだろう。


 と、熱に浮かされたようなことを言っている。


 以下、原文を掲げ置く。

 


「飛行機が大きくなれば機体は現在のユンケル式のやうにジュラルミンを以て作られ翼は機の重量を軽減するためいづれも単葉となるであらう、かくて大型となれば能力を発揮するため各機には指揮官、航空長、砲術長、水雷長も置かれ共同作業をとり…(中略)…数百人が乗りくみ従ってアーマーを張り、空中軍艦となり速力も現在の記録なる二百六十六マイルの二倍強六百マイル位になり東京からロンドンまで十二時間、ロンドンからニューヨークまで七時間、ニューヨークから東京まで十五時間、合計三十四時間で地球を一周することが出来る」

 


 後の大日本航空顧問の、少佐時代の発言だった。

 

 

(大正時代のガソリンスタンド)

 


 幼き日、奇天烈将軍マッギネスのからくり・・・・に依り、雲海の上を悠々と征く空中要塞大江戸城に胸ときめかせた残り火か。


 古人の描いた突飛な未来、いわゆるレトロフューチャー的な、斯様な展望に触れるのは、筆者わたしにとって決して不快なことでない。

 

 

 

 

 


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