穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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生薬復興 ─アスピリンからミミズへと─


 第一次世界大戦の勃発と、それに伴う輸入の遮断、俗に所謂「舶来品」の欠乏は、日本社会のあらゆる面に深甚なる波紋を描いた。


 薬価全般の高騰により、生薬の価値が見直され、代用品たるべしと持て囃され出したのも、一つの顕著な例だろう。


 京都・大阪──上方地方一部ではアスピリンの代用としてミミズに着目、風邪程度の熱ならばコレで充分解消可能と謳われて、使用を推奨されたとか。

 

 

 


 嘘ではない。


 信ずるに足る証言がある。


 この道一筋二十年、ミミズ採集で生計を立てる人物が、淀川西岸、南長柄の地に在った。


 姓は田阪、名は菊松。彼の口から、


 ──ミミズの需要が今日ほど高く盛り上がったことはない。


 との嘆声が、大正五年、漏れているのだ。

 


蚯蚓にも上下があって赤い粘土ねばつちのやうな処で掘った奴は一番上等で、次には田圃蚯蚓も宜しいが下等なのは溝の中のやつです、上等下等が如何して分るかと云ひますと、一体薬用の蚯蚓は掘ってから塩水をかけて二分間程で殺すんですが、ソコで蠅でも止まるとベタとヒッ着いて蠅がヨウ起ちません、之は粘り気がある上等ものですが悪い蚯蚓は粘り気がなくてガサガサしてゐます、…(中略)…之から彼岸に近づくと魚釣の餌にも註文が多いが薬用の方は特約した問屋があって値は呉れるだけ黙って貰ふてゐますがチット相場を上げやうかと思って居ます

 

 

南長柄八幡宮

Wikipediaより、南長柄八幡宮

 


 当年とって五十歳、黙々と己の仕事をこなす職人気質の男さえ、値上げ交渉をたくらむレベル。


 奔騰する時勢が生んだ奇観の一つであったろう。

 

 

 

 

 


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