愛し合ってる男女があった。
だがしかし、家の都合に世間のしがらみ云々と、七面倒な事情によって仲を裂かれる憂き目にあった。

今生での「添い遂げ」はもはや到底不可能と、愛しい彼との結婚が全き絶望に帰したと悟り、女は人生自体を悲観。
縄を携え走り出て、海岸沿いの枝ぶりのいい松の木に、若い躰をぶら下げた。首をくくって死んだのだ。
彼女の遺体は現地で荼毘に付せられて、遺骨だけが故郷に帰る。
骨壺を乗せ、行く列車。やがて、ふと。線路の上に、さっと飛び込む影一つ。
ここは「勿論」と書くべきか。影の素性は娘と生前、愛を交わした男であった。ブレーキが間に合う筈もなく、圧倒的な速度と質量、運動エネルギーに蹂躙されて、彼の五体は滅茶苦茶に。鉄道往生一丁あがりと相成った。

(『メトロ エクソダス』より)
物凄い後追い自殺であった。
なにやら三文小説か、場末の舞台の脚本のあらすじめいた話だが。しかしこいつは疑いもなく、現実の事件の
男は年齢二十三、佐藤伝なる姓名で。
女は
あやのが首を吊ったのが茨城県の磯崎海岸某所であって、伝が線路にダイブしたのが水戸常磐公園
(Wikipediaより、平磯海岸)
彼と彼女は勤め先を同じゅうす、──栃木県芳賀郡長沼小の教員同士であったとか。もうそれだけで出逢いの景色に馴れ初めに、あれこれ勝手に想像の連鎖しそうな情報である。
時あたかも昭和三年一月下旬、寒さの極まる頃だった。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
この記事がお気に召しましたなら、どうか応援クリックを。
↓ ↓ ↓
![]()
