また福澤が預言的な内容を『時事新報』に書いていた。
「田畑山林を人に貸すは、富人にありながら貧民を相手にして、貧乏人の銭を集めて富豪の庫に納る仕事にして、然かも貧富直接の関係なるが故に、人情として貧人の無理を許さゞるを得ず、之を許さゞれば怨府たらざるを得ず。仁と富と両立せざるものは正に地主の境遇にして、其苦心は如何ばかりなるべきや」
――地主という商売は、これからどんどん割に合わなくなるだろう。
おっそろしく煎じ詰めて表現すれば、だいたいそんな風になる。
何故かと言うに、年を追うごと小作の側が理屈っぽくなるからだ。
「是れも封建時代に数百年の関係を生じ、人事
毎回々々この人は、大正時代の紛糾を見てきたようなことを言う。
いったい何をどうすれば明治二十三年世界に棲みながら、小作争議の発生と、頻発、激化を予測可能であるのやら。
そろそろ諭吉の脳味噌がビルゲンワースの蒐集対象になりそうだ。未来視めいたこの精度、「瞳」でも宿してない限り、到底納得できかねる。
(フリーゲーム『怜子が来る!~夜の学校編~』より)
――とまれかくまれ以上の理由で福澤は、当時の地主階級に、世襲財産の転換を推奨したという次第。
山林田畑を売っ払い、株券だの何だのに変えてしまっておく方が、これからの時代、必ず有利なことになる。
小作が騒ぎだしてから、争議に屈する格好でしぶしぶ手放しては遅い。値切られるのは勿論のこと、貧乏人に勝利の実感を味わわせること、これが如何にもまずすぎる。先手、先手と出ることが、あらゆる処世の秘訣であろう。今なら逆に貧乏人に恩を着せる格好で、円満に処理出来るのだ――。
「付け替え先は、鉄道がいい。新たな投資先として、鉄道がまず堅かろう」
福澤諭吉の忠告は、そんな域まで網羅した、念の入ったるものだった。
(新橋SL広場にて撮影。時々ここで古本まつりをやっている)
が、せっかくのこの「親切」も、現実にどれほど聞く耳を持ってもらえたかというと、頗る怪しい、極めて些少であったろうと判断するより他にない。
ほとんどの者は、
――また福澤が、あられもないホラを吹き。
と、せせら笑ったのでないか。
今、眼の前の現実しか視えていない者にとり、
余儀なき人間性だった。
時は流れて昭和の
「毎年本道に入地する許可移民の多くは各府県に於ける比較的に生活困窮者であるが、最近に於ける珍しき現象は小作争議の激烈なる地方にて大小の地主が其闘争に耐へ切れず祖先伝来の田畑を投げ捨てゝ本道に安住の地を見出さんとして移住を希望して来るものが増加して来た事である、…(中略)…道庁としても最近此種の移民希望者が増加してくる事に驚いてゐる」
大方田圃に針やガラスを撒かれたり、新たに集めた小作らを闇討ちされたりしたのであろう。
(北海道釧路港)
闘争に疲れた挙句の漂着か。お世辞にも格好良いとは言い得まい。まるで落ち武者のみじめさだ。難をあらかじめ避けるのは、凡俗輩にはそれこそ至難の業だった。
いやはや全く世知辛い。
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