穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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夢路紀行抄 ―シタタカ毒虫―

 

 夢を見た。
 有名人の夢である。


 始まりは、確かショッピングモールの通路であった。


 全体的に黄色みがかった配色で、ただもうそこに居るだけで、細胞が踊り出すような、陽気な気分になってくる。

 

 建築の妙と言うべきだろう。


 幅も広い。重戦車でも悠々走行できそうな、贅沢な空間の使い方だ。


 そこをずっと歩いていると、やがて日本庭園にぶち当たった。

 

 

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 山水を引き、敷石は濡れ、風が吹けば潮騒の如く梢が揺れて快い。客の心を和ます努力が憎いばかりに費やされたその場所は、しかし私が訪れたとき、蕭殺たる気に隙間もなく満たされて、とても「癒し」どころの騒ぎでなかった。


 さもありなん。奥のこぢんまりした庵の近く、石燈籠の足下で男が死体になっている。


 毛利小五郎であった。


 江戸川コナンの隠れ蓑としてしょっちゅう麻酔針を撃ち込まれ、「眠り」の渾名まで頂戴したその彼が、顔面を朱に染め永久とわの眠りに就いている。


 死体のわきにかがみ込み、瞳孔の開ききった表情で致命傷を検分するのは、目暮警部に他ならない。


 やがて大儀そうに腰を上げると、帽子のつばに指を添え、


シタタカ毒虫の仕業に間違いないな」


 かつての部下の命を奪った下手人の名を、無感情な声音で告げた。


 最近巷を騒がせる、連続殺人鬼であるらしい。


 私の脳のどのあたりの襞の影からこんな語彙が漏れ出るのやら、我ながら不思議で不思議で仕方ない。自分のネーミングセンスというものを、ちょっと疑ってみたくなる。


 ほどなくして、私はその場から離脱した。


 ショッピングモールの通路に戻り、ボタンを押してエレベーターの到来を待つ。


 気抜けするような音を響かせ扉が開いた。


 いざ乗り込んで驚いた。先客の顔に見覚えがありすぎた所為である。憮然とした顔付きでパネルの側に佇んでいる禿頭とくとうは、間違いない、「世界一運の悪い男」ジョン・マクレーンその人だ。

 

 

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(おれは死ぬのか)


 ごく自然に予感した。


 例えばそう、今この瞬間、ショッピングモールが爆破され、エレベーターが落下するか何かして――。


 私にとってそれはほとんど既定事項に思われた。この場に於ける自分の役は、さしずめ画面に彩りを与えるための生贄である。せいぜい派手に、滑稽に死んで、観客の目を愉しませよと――。


 そのあたりで目が覚めた。


 江戸川コナンジョン・マクレーン


 死神に愛されきった男たちが偶然にも一堂に会す。


 地獄が生まれぬわけがない。仄かに影が見え隠れする異常殺人鬼がどんな具合に話に絡むか、暫くの間妄想して楽しんだ。

 

 

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