夢を見た。
麻雀を打つ夢である。
いつからか、私はバスに乗っていた。ガタゴトと揺れるそのバスは、どうやら山形県の海岸沿いを走行中であるらしい。窓外を、いちめん蔦に覆われた、今にも崩れ落ちんばかりの喫茶店が横切った。
――目的地までは、だいぶ間がある。
なにか暇つぶしの好材料はないものか。車内をぐるりと見まわして、端の方の一角に、麻雀卓が据え付けられているのに気づいた。
――これはよい。
昔の地方鉄道には、将棋盤や碁盤が常備されていた車輛があったと物の話に聞き覚えがある。震動する列車内でも対局に不自由を来さないよう、スイッチ式の電磁石が仕込まれていたとも。
だからだろうか、さしたる疑念も抱かなかった。相手を募ると、たちまち応ずる者が出た。そのうちの一人、私の対面に着いた男の顔だけは、目覚めた今でもはっきり記憶に残されている。
野比のび太だった。
それも少年時代ではない、源静香と結婚後の、大人になった彼だった。
社会に出て、それなりの苦労を積んだのだろう。彼の打ち筋はなかなか堂に入っていた。
起床後、これは何かの瑞兆か、ひょっとして今麻雀を打ったなら、役満手を持って来れたりするのでないかと妄想し、憑かれたように「雀魂」を起動。昔はよくゲームセンターで「麻雀格闘倶楽部」の筐体に100円玉を突っ込んだものだが、今日ではこのように、無料で打てる場がいくらでも巷に氾濫している。いい世の中になったものだ。
で、いざ卓を囲んでみると、期待したような好配牌は一向に来ない。
むしろ他家の手ばかりいたずらに早く、二鳴きした状態から三家リーチがかかったり、満貫ツモの親っかぶりを喰らったりと、惨憺たる状況ばかりが続く。
――所詮、夢が現実に影響するなどおとぎ話か。
諦観が満ちる思いであった。
ところが東三局。河底でトップ目から跳満を直取りするという、嘘のような幸運が。
続くオーラスでもツモに恵まれ、タンヤオドラ2をサラッと和了る。
僅差ながら、トップでその東風戦を終了できた。
――ありがたや、これぞ夢の不思議であろう。
もう憧憬と敬意とが復活している。我ながら現金な性格だ。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
この記事がお気に召しましたなら、どうか応援クリックを。
↓ ↓ ↓