穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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夢路紀行抄 ―嗚呼懐かしのセンター試験―

 

 夢を見た。
 鉛筆を削る夢である。

 


 夢の中、気付いてみれば私は懐かしのセンター試験会場に立ち返っていた。


 人生を決める大一番――。


 ところが斯くも重要な試験に、これはなんたる不注意か、ペンケースの中には万年筆しか入っておらず、シャーペンも鉛筆も消しゴムも、影も形もないのである。


 センター試験マークシート。その採点は機械によって、目を見張る速さで遂行される。機械のセンサーは原則遠赤外線を照射しており、これが鉛筆に含まれる炭素に反応して読み取りが行われるシステムだ。ボールペンや万年筆のインクでは、この反応が基準値に遠く及ばない。


 つまりいくら正答を塗りつぶしたところでまったくの無為、「無回答」とカウントされるのみである。これは弱った。早急に鉛筆を調達しなければならない。

 

 

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 幸い、試験開始までにはまだ幾分か猶予がある。会場を抜け出した私は、首尾よくほど近い場所に売店を発見。鉛筆を束で買い込むと、早速それをナイフで以って削り始めた。


 そう、ナイフで。あたかも前時代の学生のように。鉛筆削りを使おうという発想は、何故か露ほども浮かばなかった。


 しかし、まったく何たることか、ここで再び問題発生。細心の注意を払ってナイフを動かしているにも拘らず、鉛筆が次々折れるのである。


 芯のみではない、芯を包んでいる木材ごと逝く。それはもう、ポッキーみたくポキポキと。


 ついには購入した悉くが使い物にならなくなった。


 そこで私の脳裏に去来したのは、「缶詰」と呼ばれる鉛筆の存在。

 

 

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 戦前猖獗をきわめた詐欺商品の一種で、両端の僅かばかりの範囲にしか芯が詰まっていないのである。中身は空洞、それが丁度蓋をした缶詰のように見えたので、こんな名前が付いたとか。


 こうまで脆く出来ているのは、この鉛筆が「缶詰」だからではないか? おのれ悪徳商人め、未だ絶滅していなかったのか――と怒りに駆られたあたりで目が覚めた。

 


 聞くところによると、大学入試センター試験は今年度の実施を最後に廃止され、来年からは新たな制度に移行するそうな。


 この改革で受験戦争の様相は、或いは一変するだろう。我々センター受験世代が「時代遅れの老兵」扱いされる日とて、まんざら来ないとは限らない。時代の移り変わりを明示するニュースに、私の深層心理が反応した結果、あのような夢を見たのだろうか。


 いずれにせよ、懐かしいやら忌々しいやら、なんとも複雑な目覚めであった。

 

 

 

 

 


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