穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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夢路紀行抄 ―心臓祭り―

 

 夢を見た。
 猟奇的な夢である。


 夢のなか、中学生に戻った私は教師から、耳を疑う指令を受けた。なんでも新学期を始める前に心臓を取り換える必要があるから、これで適当に見繕って来いと言うのである。


 教科書を買い揃えろとでも告げるに等しい、いともさりげない口ぶりだった。


 それで手渡されたのが、何の変哲もない鈍色の鍵。わかりましたと返答し、私は迷わず階段を下りた。
 鍵は、学校の地下室のものだった。中に入ればあるわあるわ、無機質な蛍光灯の輝きの下、棚という棚に陳列された心臓の数々。


 円筒状のガラスケースに収められ、透明な薬液にぷかぷか浮いてるいかにも・・・・といった風情のモノがあるかと思えば、ぞんざいにビニールぶくろに突っ込まれ、くるくると丸められただけのモノがあったりと、扱いにひどい差があった。
 透明なビニールぶくろから、膿が漏れ出て棚を黄ばませていたのが印象深い。


 しかしながらそれにも増して私の眼を釘付けにしたのは、心臓を格納している容器、その片隅に貼られた「採集場所」と「採集日時」を書き込むシール、そこに記入された文字という文字が悉く、「ヤーナム」であったことである。


 ――なんということだ。


 こんな代物を移植されて、果たして人間のままでいられるのか? ――と、私が戦慄したのもむべなるかな。あの呪われた古い医療の街から取り出された心臓が、決してまともなはずもないであろう。そのことを私は、知りすぎるほどに知っている。たとえ茫洋たる夢の中でも、その認識だけは揺らがなかった。

 

 

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 さてこそ我が学び舎は、ビルゲンワースに連なるものかと底冷えするような怖気に襲われたところで目が覚めた。


 布団を跳ね上げ、胸に縫合痕がないのを確認したとき、私がどれほど安堵したかはちょっと筆には書き起こし難い。

 

 

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