四月十日夜半、『隻狼』プラチナトロフィーに到達。
プレイ時間を確認すると、67時間38分49秒であった。
ひと段落ついた今、本作を振り返って特に印象深いステージは何処かと問われれば、やはり「源の宮」をいの一番に挙げるだろう。
なにしろそれまでの殺伐とした戦国の世から、一気に雅なることこの上ない奈良・平安の王朝時代へ遡ったようなものである。
武骨な葦名城の造作にすっかり慣れ切っていた我が眼にとって、桜とべんがらに彩られたこの華やかさは衝撃だった。
この光景に初めて直面したときは、ほとんど呆然として、しばし木偶人形の如くに突っ立ち、流れ聴こえる管弦の音に身を委ね、幽玄な情緒に我を忘れて酔い痴れていたものである。
しかしながらこの屋根の下で蠢き這いずるものどもは、これまで遭遇したどんな敵よりもおぞましい。
そうした美と醜の対比がこの「源の宮」をして、いよいよ常ならざる異界としての雰囲気を煽り立てているようだった。
それにしても、翠玉を溶き流しでもしたかの如き水の美しさときたらどうであろう。
水が日本人の民族性形成に関係すること如何に大かは、広く知られたところである。
鴨長明が世の無常を象徴する例えとして『方丈記』の冒頭に置いたのは「ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」だったし、崇徳院は「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ」の詩を詠んだ。
水に感じ、水を愛し、水と共に生きる。流るる水のせせらぎに洗心の快を覚えるのは日本人の根深い精神風土の一つであろう。斯様に水は、われわれの魂の奥底にまで浸透している。
その性質を、『隻狼』は見事に逆手にとってあっと驚く方向へと昇華してきた。
正直、これには脱帽する以外ない。竜、仙境、変若水、不老不死と、ひとつひとつはありきたりな材料を使って、しかし唯一無二を創造している。それがどれほど至難の業か、――ただもう敬服の至りである。
フロムを信じ、予約した甲斐があったというもの。『隻狼』は、衰えつつあった私のゲームに対する情熱を、取り戻させてくれた一本だった。

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