以前、上野東照宮に参詣したことがある。
祭神は家康・吉宗・慶喜の三柱。幕府を開いた男と、中興の祖と、終わらせた男だ。
しかしそれ以上にこの宮は、黄金の社殿で名が高い。
とはいえ、否、だからこそ私は一抹の不安を覚えてもいた。こういう趣向はともすれば、成金趣味のケバケバしさに堕ちかねない危険を孕む。果たして如何なるものであろうかと、やや警戒しつつ赴いたのだが――所詮凡愚の浅知恵と言うべきか、まったくの杞憂に過ぎなかった。
石造りの鳥居を潜り、燈籠の並ぶ参道を抜け、いざ門構えを目の当たりにするや、そんな心配は春の淡雪の如く刹那の裡に消え失せた。
軽薄などとんでもない。息をするのも忘れるような森厳な気が、静かに境内に満ちている。
奥に鎮座まします御方々の貫目が、黄金のそれと釣り合っているからこその重々しさであったろう。その実感は、本殿に近付くことでいよいよ強化される運びとなる。
いやさまったく、金閣よりも美しい。
極楽の風景とは正しくあれだ。あんな場所に憩えるのなら、それだけで天下をとった甲斐がある。
こうなると、日光の総本社にもぜひ参詣してみたくなる。
機会を作って、いずれ、必ず――。
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