穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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私的生田春月撰集 ―厭世・悲観・虚無 其之弐―

 

  読むだけで気が滅入り、生きているのをやめたくなる詩句が延々と続く。
 しかしこの、細胞が指先から徐々に死滅して行くような感覚が、段々と気持ちよくも感じられてきてしまう。
 癖になるのだ、春月は。

 

 

 

 憎まれて憎みてはてはのろはれて
 のろひてわれやひとり死ぬべき
(昭和六年『生田春月全集 第二巻』156頁)
 
 
 
 知らぬ他国に月日をかさね
 いまは他国があぢきない
 苦労ばかりにやつれた身には
 花の都も荒野なる。
 
 恋しなつかしわがふるさとは
 海のほとりの田舎町
 その町なみの柳でさへも
 昔ながらのなつかしさ。
 
 これが浮世か世のなりゆきか
 さても変るは人心
 昔馴染の友達さへも
 顔をそむけてもの言はず。
 
 これが故郷か生れた町か
 わしがしるべは墓ばかり
 知らぬ他国となげいた身には
 生れ故郷も他国なる。
(同上、89頁)
 
 
 
 人の心と
 さくらの花は
 さくも早いが
  ちるも早い。
 
 さくら、さくらと
 もてはやされて
 三日見ぬまに
 塵となる。
 
 ほんにこの世は
 花も人も
 三日見ぬまの
 仇ざくら。
 
 こひし、こひしと
 おもふも三日、
 三日すぎれば
 また他人。
(同上、47頁)
 
 
 
 この世は火宅、
 心も火宅、
 昨日は人をわらへども、
 今日は人からわらはれる、
 昨日のまことは今日の嘘、
 今日の望みは明日のうたかた、
 これがこの世の常だ、いつまでも。
(同上、215頁)
 
 
 
 ゲエテは自殺せずして宰相となり
 シェエクスピアは成金となり
 ユウゴオは崇拝者を安あがりのせふとせり、
 ああ、大詩人はつねに大なる俗物なりし。
(同上、239頁)
 
 
 
 世界はまるくない、四角だ!
 アルプスの嶮しい山角を下るとき、
 あるひは人はさう感ずる……
 
 世界はどうして圓からうぞ、
 人の心のけはしい尖角にふれるとき、
 我等はそれを確信する!
(同上、253頁)
 
草上静思 (国立図書館コレクション)

草上静思 (国立図書館コレクション)

 

 

 




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