夢を見た。
山に登っている夢だ。
高尾山と呼ばれていた気もするが、登山道といい標高といい何一つ現実の高尾に似たる部位はない。あまりに険しく、またあまりに人気がなさ過ぎるのである。夢の高尾と呼ぶべきか。
膝上までずっぽり埋まる雪中を、ラッセルしながらひたすら進んだ。装備は軽い。ピッケルもストックもアイゼンすら用意せぬという有様で、到底冬山を攻めるべき格好ではない。よほど山を舐めているか、さもなくば自殺志願のどちらかだろう。
にも拘らず頂上まで到達し得たのは、ひとえに夢中の沙汰ゆえか。群峰脚底に低く、身は揚々として白雲の上に快哉を叫ぶ。我此処に至りて人間というものの総てを忘却し尽し、蒼天大自然に冥合する心地なり。――…
いつから高尾はヒマラヤか、或いはアルプスの峰々と肩を並べるようになったのだろうか? この感慨を抱いていいのは、そのレベルの山の頂を征服してのけた時だけだろうに。
この夢は、しっかり下山まで続いていた。その行程も尋常一様なものでなく、途中ひっきりなしに落石が降り続ける地帯があったから驚きだ。雪崩ではなく、真っ黒な岩石が滝のように落ちてくる。中には岩のくせにゴムボールよろしく跳ね回るものまであった。真に奇怪千万。
そのあたりで目が覚めた。枕元の電波時計は午前七時を表示していた。
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