日本国憲法は前文からして間違っている。「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して」? 寝言をほざくな、そんなの(・・・・)が、日本の周囲(まわり)のいったい何処に存在してやがるのか。 支那に南北朝鮮に、それからもちろんロシアも含め。どいつも…
明治六年の発布以後、徴兵令は数次に亙って改訂され、補強され。より現実の事情に即した、洗練された形へと、段々進化していった。 初期のうちには結構あった「抜け道」、裏技の類にも、順次閉塞の目処がつき。 だが、なればこそ横着なる人心は、僅かに残っ…
ここに一書あり。 大雑把に分類すれば嘆願状に含まれる。 さるハワイアン女性からアメリカ国民全体へ訴えかけた文である。 一八九三年二月十三日というのが、その書の提出(だ)された日付であった。 左様、一八九三年、ハワイ王国落日の秋(とき)――。 (ハ…
日本土木会社の禄を食む若い衆五名がリンチ被害に遭ったのは、明治二十四年一月二十八日のはなし。「陸軍の街」青山で、その看板に相応しく、兵舎建設作業のために腕を揮っていたところ、突発したる沙汰だった。 (Wikipediaより、青山練兵場) 五人を囲むに…
この世のどんな悪疫よりも性質(タチ)のわるい病患が、一次大戦終結後のヨーロッパに蔓延った。 共産主義のことである。 マルクス教と言い換えてもよい。 (Wikipediaより、カール・マルクス) イタリアでも、ポルトガルでもアカのカルトは跳梁し、社会を喰…
「歯科医ほどつまらぬものはない」 暗澹たること、鄙びた地方の墓掘り人足みたいな貌(かお)で、真鍋満太は言っていた。 自分で選び、自分で修めた道ながら、この職業の味気なさはどうだろう。毎晩毎夜、布団にもぐりこむ度に、我と我が身の儚さがここぞと…
第一次世界大戦勃発以前、パレスチナの地に居住していたユダヤ人は、ものの六万。 そこからバルフォア宣言を経て、彼の地がユダヤの国であると認められ、十三年が経過した。 すなわち一九三〇年。なんとはなしに区切りの良い数である。もうひとつ区切りのい…
「暮の二十五日になると必ずクリスマスセールが始まる。日本にも多くのキリスト教徒が居るからキリスト降誕を記念する催しのあるのは当然だと思はれるけれども、日本のクリスマス騒ぎはあまり宗教的な意義はなく、無論キリスト降誕は無関係であるらしい。…(…
「結石の美しさを知っているかね?」 これはまたぞろ、レベルの高い変態が出た。 阿久津勉という医師に、初対面にて筆者がもった、偽らざる印象である。 (Wikipediaより、尿路結石) 「結石は、尿道にこう、膀胱鏡を差し込んで、膀胱内に転がってるのを見る…
こと諜報の分野にかけて、英帝国は玄人である。 何故こんな事を知っているのか、何処からソレを掴んだか――。 いっそ魔術的とすら謳いたくなる暗中飛躍は舌を巻くより他なくて。――日本の古い仏教系新聞に、あの連中の底知れなさを仄めかす記事が載っている。 …
高橋是清邸に惹かれてやって来た。 江戸東京たてもの園、都立小金井公園の一角を占める野外博物館である。 その名の通り、十七世紀――江戸時代からこっちにかけて四百年、関東平野に築造されたあれやこれや(・・・・・・)の建物を、集めて維持して展示して…
あとで聞いた話によると、地面が揺れて半刻ほどもせぬうちに、もう家財道具一式を大八車に積み込んで、雲を霞と安全地帯へ避難した途轍もない「利け者」が神田辺には居たらしい。 そいつの家には旧幕生まれの老人が猶もしぶとく生きていて、第一震を感じた瞬…
脚を折ったら豚足を、モノが勃たなきゃオットセイの睾丸ないしは陰茎を。 病み苦しんでいる時は、患部と同じ部位をむさぼり喰うことで、恢復がより(・・)早くなる。 異類補類、同物同治の概念だ。 漢方、すなわち大陸由来の智慧として、一般には知られるが…
頭山満が支那へと渡る、玄洋社の志士五人を連れて――。 この一報に、 「ただでは済まない、何かが起こる」 朝野官民のべつなく、実に多くの日本人が同じ戦慄に苛まれ、神経過敏に陥った。 (Wikipediaより、頭山満) まあ、無理はない。 なにせ、時期が時期だ…
古書を渉猟していると、数字の羅列によく出逢う。 遭遇して当然だ。自論に箔を付けるため、正当性を押し出すために数の威力を借りるのは、古(いにしえ)よりの常套手段、王道中の王道ではあるまいか。 例の抜き書く癖により、気付けば随分その種のデータが…
「歯の健康」。 蓋し聴き慣れたフレーズである。 口腔衛生用品なんぞの「売り文句」として日常的に耳にする。 あまりに身近であり過ぎて、逆に注視しにくかったが――どうもこいつは相当以上に年季の入ったモノらしい。 具体的には百五十年以上前。維新早々、…
途中で死ぬのが、永く英人の悩みであった。 羊のことを言っている。 牛と並んで、オーストラリアの名産品だ。 先住民(アボリジニ)を――主にあの世へ――叩き出し、土地を横領、くだんの植民大陸を牧場として整備したのは素晴らしい。 それ自体は上出来だ。 た…
露帝ニコライ一世は身を慎むこと珍奇なまでの君主であって、例えば彼が内殿で履いた上靴は、生涯一足きりだった。 (Wikipediaより、ニコライ一世) むろん、時間の荒波により生地は痛むし穴も空く。しかしながら空くたびに、針と糸とを携えた皇后さまが駈け…
黒白を 分けて緑りの 上柳赤き心を 持てよ喜右衛門 投票用紙に書かれた歌だ。 もちろん無効票である。 明治四十二年九月に長野県にて実行された補欠選挙の用紙には、とにかくこのテの悪戯が、引きも切らずに多かった。 (信州諏訪の風車。「これは地下のアン…
伝統とは、ときに信頼なのだろう。 フランスがスエズ運河の開削に、オランダ人らを大挙雇用した如く。 村田銃の量産作業に際会し、明治政府もひとつ凝った手を打った。 玄人衆を引き入れたのだ。 彼らは西南から採った。種子島の鉄砲鍛冶に声をかけ、遥々帝…
非常に意外な感がする。 まさか天下の『時事新報』に、「キチガイ地獄外道祭文」を発見するとは。 不意打ちもいいとこ、予想だにせぬ遭遇だった。 明治二十年三月三日の記事である、 「西洋諸国にては遺産相続の際などに、一方の窺覦(きゆ)者が他の相続人…
「なあ、おい、聞いたか、あの噂」「どの噂だよ、はっきり言えや、てやんでえ」「どうも世界は滅ぶらしいぜ」 こんな会話を、人類はもう、いったい幾度繰り返し交わし続けて来たのだろうか。 千か、万か、それとも億か。たぶん、おそらく、発端は、西暦開始…
日光東照宮こそは、家光の狂信の結晶である。 (日光東照宮 陽明門) 先述の通り、家康をして日本歴史開闢以来、最大・最強・最高の英雄なりと百パーセント心の底から信奉していた家光は、神にも等しい、そういう祖父の、御霊を祀るための廟所は、これまた当…
余談として述べておく。 度を越して過熱した欧化運動、その分かり易い例として、明治十二年一月の日枝神社を挙げておきたい。 同月十五日付けの『東京日日新聞』紙を按ずるに、 「今十五日は日枝神社の月次の祭典なるが、神楽は我が神代より有り触れたるもの…
明治の初め、本格的に国を開いて間もないころの日本に、どやどや上がりこんで来た紅毛碧眼の異人ども。我が国固有の風景を好き放題に品評した彼らだが、こと建築に限っていうと、嘆声を放ったやつはほぼ居ない。 「なんだこの、薄っぺらな紙と板の小細工は」…
我が子を崖下に突き落とすのは、ライオンのみに限った習性、――専売特許でないらしい。 「ロッペン鳥もそれをする」 と、三島康七が述べている。 昭和のはじめに海豹島の生態調査をした人だ。 (Wikipediaより、ロッペン鳥ことウミガラス) そう、海豹島――。 …
昭和十五年十月二十三日、大日本帝国、オットセイ保護条約の破棄を通告。 その一報が伝わるや、たちまち社会の片隅の、なんとはなしに薄暗い、陰の気うずまくその場所で、妙な連中が歓喜を爆発させていた。 猟師でも毛皮商でも、はたまた国際社会のすべてを…
アイヌラックル然り、ポイヤウンベ然り。 アイヌの世界観に於いて、雷神はよく樹木を孕ませ、そして英傑を産ましめた。 前者はチキサニ、すなわち春楡(ハルニレ)の樹木から、 後者はアッツニ、すなわち於瓢(オヒョウ)の樹木から、 それぞれ誕生したのだ…
商人の仕事は金儲けだ。 守銭奴が彼らの本質である。 世界に偏在する富を、己が手元に掻き集めること、一円一銭一厘たりとも忽(ゆるが)せにせず、より多く。それ以外にない、ある筈もない。またそうしてこそ、それに徹してみせてこそ、敏腕とも呼ばれ得る…
メキシコ。 血に塗(まみ)れた国名だ。 殺人、強盗、誘拐、密輸。拷問、処刑も付け足していい。そして勿論、麻薬もだ。この名前から呼び起こされるイメージは、邪悪を煮詰めたモノばかり。それが正直な心情だ。マラカス振って陽気に踊り、タコスを頬張るな…