穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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2023-06-01から1ヶ月間の記事一覧

ハイ・ボルテージ

『ARMORED CORE Ⅵ FIRES OF RUBICON』の戦闘メカ(AC)は、麻薬性の物質を燃料として駆動すると耳にした。 なんなんだその世界観、魅力的にも程がある。昂り過ぎてどうにかなっちまいそうだ。素敵滅法界なこと、掛け値なしな舞台背景。今すぐ全てを焼き払い…

サムライ×シャーク ―洋上の試刀―

人間、暇が嵩じると、その単調を破るため、とんだ(・・・)遊びを仕出かしたがる。 退屈の蓄積量に従って、「遊び」の規模や突拍子なさが倍加する。 海の荒くれ野郎にとって、鮫は格好の玩具であった。 旧海軍の士官等は、あまりに無聊を託ち過ぎるとこいつ…

旅愁雑考 ―道、遙かなり―

旅の楽しみとはなんだ? 見たこともないものを目の当たりにし、味わったことのないものを舌の上に乗せること、どれほど雄渾な想像力を以ってしてでも追っつかぬ、「リアル」に圧倒されること、総じて未知に触れること。世界観を拡張される快さ――とどのつまり…

マガキ、あるいはパシフィック

金井平兵衛は広島の牡蠣商人である。 明治三十五年、神戸在住のアメリカ人から発注を受け、合衆国に広島牡蠣を輸出した。 すると翌年、またもや同じ業者から、牡蠣を頼むと注文が。 (お気に召したか) ウチの牡蠣の品質は独り内国のみならず、舞台を「世界…

露人去りて後

ベーリング海は魚族の宝庫だ。 汽船どころか帆船時代に於いてさえ、四十五万三千三百五十六匹の鱈を獲った船がある。 彼女の名前――どういう次第か、フネは往々、女性人格を附与される――は、ソフィ・クリステンセン号。総計五ヶ月、出漁しての成果であった。 …

テラインコグニタ ―合衆国の北西部―

日本の鉄道運行が時刻表に極めて忠実なることは、戦前すでに定評があった。 一九三〇年代半ばごろ、この島国を旅行したエドワード・ウェーバー・アレンというアメリカ人が書いている、 「日本の汽車は特色がある。 狭軌で、遅く、国有経営である。たまには臭…

湯治古話

「入浴の際、殊に貧血衰弱者は、凡そ盃半杯の醤油に、番茶五六勺を注ぐか、又は生鶏卵一個を割りて、稍々多目に醤油を入れたるものを飲みて入浴すれば浴後疲労を覚えず」 陸軍軍医で栄養学にも造詣深き明治人、石塚左玄の案出せし養生法だ。 つい先日、サウ…

タイプライター全盛期 ―三越専務の見たシカゴ―

紀行文は好きなジャンルだ。 旅はいい(・・)。自分でゆくのは当然のこと、他人(ひと)の話を謹聴するも、また楽し。 最近読んだ部類では、昭和六年刊行の『商心遍路』がまず秀逸な出来だった。 著者の名前は小田久太郎。浮世の肩書き、三越専務。三井王国…

シカゴ夜話 ―屠殺街―

シカゴは屠殺場の街。 牛・豚・羊――合衆国にて飼養される家畜類の大半は、鉄道ないし水利によって一旦ここに集められ、食肉に加工された後、再び散って国じゅうの食卓に載せられる。それが二十世紀前半の、日本人の偽らざる認識だった。 実際問題、そういう…

唯一、霧散を逃れしは

ここ最近、熊が人を襲うニュースを立て続けに耳にしたからに違いない。 「娘のGPS反応を熊の巣穴で見つけちまった母親みたいな顔だぜ」と、こういうセリフをつい今朝方の夢の中でかけられた。 他の内容は起床と共に霧散して、全部忘れてしまったが、この比喩…

言葉は霊だ ―国字尊重の弁士たち―

『雄弁と文章』『新雄弁道』『勧誘と処世』『交渉応対 座談術』――。 神保町を駈けずり廻り、購(あがな)い積んだ大日本帝国時代の演説指南書。 甚だしく日焼けして甘い香りすら仄かに漂うページを捲り、ざっと通読した限り。どの「流派」にも等しく伝わる「…

黄河にて

日本に於いて黄砂が観測されるのは、三月から五月にかけてが通常であり、わけてもだいたい四月を目処にピークがやってくるという。 が、それはあくまで海を隔てた、この島国に限った常識(はなし)。 黄砂の供給源である大陸本土に至っては、だいぶ事情を異…