穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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2023-04-01から1ヶ月間の記事一覧

三島由紀夫と英国紳士 ―「優しさ」の正体への私見―

前々から準備されていたのであろう。 一九三九年九月三日、ネヴィル・チェンバレン首相によって対独宣戦布告が為され、イギリスが戦争に突入すると、さっそく新聞紙面には、 「婚約中の応召者に告ぐ」 などと云う、妙な記事が出現(あらわ)れた。 (これは…

権現様と福澤諭吉 ―先生、三方ヶ原を説く―

まさか旧幕臣の自意識が、この男の脳内に片鱗たりとてあったわけでもなかろうが――。 とまれかくまれ、福澤諭吉は家康につき、よく触れる。 それも大抵、好意的な書き方である。 ある場面では「古今無比の英雄」と褒めそやしさえしたものだ。権現様が基礎固め…

大目出鯛の戸沢どの

佐竹がやってくる以前、羽州北浦――田沢湖附近一帯を治めていたのは丸に輪貫九曜紋、戸沢の一族こそだった。 (Wikipediaより、丸に輪貫九曜紋) 石高、四万五千石。評判はいい。善政を敷いていたらしい。 百姓どもと領主の距離も近かった。戸沢の殿が田沢湖…

【閲覧注意】 マゴットセラピー ver.1945

日本に於けるマゴットセラピーの濫觴は、実は二〇〇四年にあらずして、一九四五年にまで遡り得る。 そう、大東亜戦争末期のころだ。 亀谷敬三医学博士が機銃掃射を浴びた患者の治療に用いて、めざましい成果を挙げている。 (Wikipediaより、P-51Bへの弾薬補…

町工場の神頼み ―「科学と霊魂の興味ある一致」―

工場ではよく人が死ぬ。 電気を貪り喰らいつつ、ひっきりなしに駆動する金属の森の只中で、有機体はあまりに脆い。 注意一秒・怪我一生、刹那の油断が命取り。指が飛んだり皮膚が溶けたり、そんなことはしょっちゅうだ。それだから昔の町工場は、よく敷地内…

大陸浪人かく語りき

大陸浪人多しといえど、およそ須藤理助ほど著名な志士も稀だろう。 彼がその種の活動に手を染めだした契機(きっかけ)は、明治三十七、八年の日露戦争に見出せる。 「皇国の興廃この一戦にあり」。国運を賭したかの戦役に、陸軍軍医中尉として参加していた…

花咲く布袋

大正九年から十年にかけ、布袋竹の一斉開花と枯死が来た。 この「一斉」の二文字を、どうかそのまま受け取って欲しい。 現象が確認されたのは、福島、新潟、長野、山梨、神奈川、東京、栃木、茨城、群馬、千葉、愛知、岐阜、兵庫、大阪、奈良、京都、香川、…

竹、甘い竹 ― Tabaschir あるいは Tabasheer ―

ある種の竹はその節に、甘味を蓄積するらしい。 本多静六が書いている。 この筆まめな林学士、日本に於ける「公園の父」とも渾名される人物は、人生のどこかで台湾を、――それも高雄や基隆の如き都市部に限らず草深い地方をも歩き、その生活を字面通り支える…

今昔神保町

無性に神田に行きたくなった。 一枚の写真が契機(きっかけ)である。 これが即ちその「一枚」だ。 いちばん手前の屋号に注目して欲しい。 右から左へ、流れるような草書の文字は、「大雲堂書店」と読める。 ある種のビブリオマニアなら、この時点でもうピン…

昇進お断わり ―日本の場合、イギリスの場合―

三井物産は日本最初の総合商社だ。 海外への進出も、当然とりわけ早かった。 明治十二年にはもう、英国首府はロンドンに支店を開いてのけている。 大久保利通が紀尾井坂にて暗殺された翌年だ。まずまず老舗といっていい。その歴史あるロンドン支局に、これま…

狂信者、徳川家光

家光は信仰の持ち主だった。 しかして彼の熱心は、アマテラスにもシャカにも向かず。 高天原の如何な神、十万億土のどんな仏にもいや増して、東照大権現・神君徳川家康をこそ対象としたものだった。 まあ、この三代将軍の、因って来たるところを見れば無理も…