穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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2023-02-01から1ヶ月間の記事一覧

血より生まれよ ―屠殺と肥料―

むかし、豚の解体を観た。 直接ではない。ブラウン管のテレビ画面を通してだ。中学生の頃であったか、道徳の時間にドキュメンタリーを流したのである。 ドイツ某所で平和に生きるありきたりな家族らが、飼育していた豚を潰して食糧に――生命(いのち)を物体…

1901年のバイオハザード ―吸血生物、水道水に混入す―

「なんだ、おい、くそ、ふざけんじゃねえ、馬鹿野郎――」 結城銀五郎は顔じゅうを口にして叫ばずにはいられなかった。 こんなことがあっていいのか。 水道水にヒルが混ざり込んでいたのだ。 それも一匹や二匹ではない。 ぼたぼた、ぼたぼた――開いた栓からひっ…

禍津風前後 ―続・世界帝国プレリュード―

十四世紀、人類はペイルライダーの降臨を見た。 黒死病の流行である。 ヨーロッパの天地では、どう控えめに測っても総人口の四分の一が死滅した。 (Wikipediaより、黙示の四騎士) イギリスは島国、欧州大陸本土とは地面で繋がってはいない。 ドーバー海峡…

富を集めよ、この島に ―世界帝国プレリュード―

七つの海を支配した超大国イギリスも、中世頃にはずいぶん惨めなものだった。 この国の対外貿易は――島国であるにも拘らず――、ほとんど全部が外国商人どもの手に落ちていたといっていい。 ハンザ同盟、ヴェニスの商人――そのあたりの連中が大あぐらをかいてい…

追憶は戻らず

日露戦争期間中、旅順閉塞の試みは三度にわたって展開された。 明治三十七年二月十八日が第一回目の決行日。民間より、都合五隻の老朽船を買い上げて、指定座標でこれを沈没、その残骸で旅順港を通行不能に――物理的に封鎖してしまう算段である。 その日に先…

十和田湖、三年、二千円

こんな企画を思いつくのは何処の誰(どいつ)であったろう。 少なくとも和井内家の人間ではない。 昭和の初め、結構な数の潜水夫らを駆り催して、十和田の湖底をしきりに浚ったやつがいた。 (十和田湖) 賽銭の回収が目的だった。 そういう習俗があったので…

食肉はいやだ ―軍馬始末覚書―

馬肉禁食会の発起は明治三十九年になる。 越前福井の有力者、亀谷伊助が立ち上げ人だ。 志(ココロザシ)自体は正当だった。 高潔とすらいっていい。日露戦争遂行のため、日本全国津々浦々から動員された軍馬たち。のべ十七万頭以上に及ぶ、乃木希典の言葉を…

遼陽にて ―あるユダヤ人の日露戦争―

黒っぽいものを歩哨が見つけた。 明治三十七年九月中旬、当節遼陽大鉄橋と通称された構造体の下である。歩哨の所属は、むろん日本陸軍だ。遼陽会戦が決着してから二週間ほど経っている。一帯の勢力図はまず以って、皇軍の色になっている。 (Wikipediaより、…

報道は熱し ―明治の重大事件二種―

にわかに帝都を聳動せしめた白昼の異変。明治三十五年十二月十日、田中正造、天皇陛下に直訴の件を、翌日の『読売新聞』報じて曰く、 天に訴へ地に訴へ社会に訴へ議会に訴へ法廷に訴へ請願となり陳情となり演説となり奔走となり運動となり大挙となり拘引とな…