穢銀杏狐月

書痴の廻廊

事は起すに易く、守るに難く、其終りを全くすること更に難し。努力あるのみ。一途に奮励努力せよ。

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2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

友垣、竹垣、えらい餓鬼 ―久保塾時代の伊藤博文―

伊藤博文が師と呼ぶ相手は四人いる。 一人は三隅勘三郎。伊藤の郷里、束荷村の寺子屋師範。八つのときに彼に就き、伊呂波の如き初歩の初歩を教わった。 二人目が久保五郎左衛門。萩の城下で家塾を営んでいた人であり、この久保塾で藤公は、読書や詩文、習字…

長州藩の悪童事情 ―火遊びに耽る伊藤博文―

武士の資質とはなんであろうか。 ほんの座興に死んだり死なせたりできる、ある種の狂気がそう(・・)ならば、伊藤博文は間違いなく生まれついての武士だった。 彼がまだ利助といって、父の破産の不手際により、母方の実家――秋山長左衛門宅に預けられていた…

大戦前夜の工学者 ―地獄の鬼も出でて働け―

我が国に於ける地熱発電の歴史は意外と古く、大正八年早春の候、海軍中将山内万寿治の別府温泉掘削にまで遡り得る。 坊主地獄近辺の地盤を八十尺ほど掘り進み、幸いにも案に違わず盛んな蒸気の噴出を見た。 将来的な化石燃料の枯渇に備え、今のうちから代替…

代替可能な多数の凡人 ―講談社という企業について―

発行部数が百万を超える雑誌なぞ、あの何事も派手にやらねば気の済まぬアメリカならではの現象である。国土も人心もせせこましい大和島根でそんなことを望むのは、はっきりいって痴人の寝言、木に縁って魚を求むるが如き、どだい無理な註文よ。―― そうした引…

「男の世界」に手を伸ばす ―この閉塞から脱却を―

「野間の相手は疲れる」との評判だった。 この「雑誌王」と碁盤を挟むと、とにかく猛然と攻め立ててくる。外交交渉も準備工作もありゃしない。開幕早々、まっしぐらに石をぶつけて、火を噴くような大殺陣に否応なしにもつれ込む。 王よりも、単騎駆けの武者…

ムッソリーニの「独身税」 ―多産国家イタリア―

以下の内容は、あるいは一部フェミニストを激怒させ、血圧の急上昇による気死すら招くものかもしれない。 結婚して家を成し、子供を儲けて血筋を後に伝えることは人間として最低限度の義務であり、且つうはあらゆる幸福の基礎であると規定した国が一世紀前存…

老い知らずなり伊藤博文 ―厳島にて後藤と会す―

治乱誰言有両道修文講武是良漢胸中所盡無他策欲韓山草木蘇生 伊藤博文の詩(うた)である。 明治三十八年、初代韓国統監として実際に彼の地に渡る際、吟じたものであるという。 (Wikipediaより、統監府庁舎) 藤公、このとき六十五歳。 既に還暦を過ぎてい…

タマニー・ホール武勇伝 ―不正選挙の玄人衆―

第五十九回大統領選に関連して、不正選挙だ言論弾圧だ陰謀だとなにやら色々喧(かまびす)しいが、アメリカがロクでもない国なのは、別段今に始まった話ではないだろう。 なんといっても、慈善団体が十年足らずで政治ブローカー集団に早変わりする土地なのだ…

黒川園長、カバを説く ―その生態と肉の味―

明治四十四年二月二十三日、上野動物園に一頭のカバがやって来た。 日本に於けるカバの展示の第一である。 たちまち人気が沸騰した。 (Wikipediaより、カバ) この珍妙な、さりとてどこか愛嬌のあり憎めない外貌(みかけ)を求めて連日客が殺到し、獣舎をぐ…

夢遊病者の殺人事件 ―牧野親成の裁き―

夢遊病者が殺人事件を起こした場合、罪の所在は那辺にありや? 単純かつ剄烈に、彼を殺人者として裁いてよいのか? 江戸時代初期、四代将軍徳川家綱の治世に於いて、この難題を突き付けられた者がいた。 京都所司代、牧野親成その人である。寛延二年に刊行さ…

山梨の自動販売機 ―ワンハンド高級アイスクリーム―

まだ生きているとは思わなかった。 先日山梨に帰省した折、撮影したものである。 レトロデザインなアイスクリームの自動販売機。電源は入っていないから、「生きている」という表現には語弊があるか。 まだ撤去されずにいたとは驚きだ、と書くべきだろう。少…

ハーゲンベックの慈悲深さ ―Human zooの内と外―

黒川義太郎の現役時代。上野動物園の運営は、専らカール・ハーゲンベックの手法に拠るところが大だった。 以前記した大型ネコ類の分娩環境整備など、まさにその好例だろう。 大正十五年の講演で、 ――園内のものは皆んな私の子のやうな感じがする。 と発言す…

江戸時代の強制執行 ―「身代限り」にまつわる法令―

江戸時代の法令というのは発布と実行の間にかなり大きな懸隔があり、これを考慮に入れないと、物事の実像をとんでもなく読み違う。 なにせ、「三日法度」なんて用語までもが罷り通っていたほどだ。 寛政年間の奇談集、『梅翁随筆』にちょうどこの言葉が使わ…

運命からの贈り物 ―「栄螺ト蛤」―

予期せぬ出逢いがまた増えた。 例によって例の如く、古書のページの合間から、はらりと舞い落ちて来たのである。 題名は「栄螺ト蛤」で、左下は「第三学年 木本リツ」と書いてあるように読めないか。 学生の美術の課題だろうか? それにしては完成度がやたら…

「紙漉唄」私的撰集

令和三年の太陽が、二回昇って二度落ちた。 冷たく冴え徹った蒼天に、鮮やかな軌跡を描いていった。 新年の感慨、意気込みの表し方は人それぞれだ。清新の気を筆にふくませ、書初めを嗜む方とて少なからず居るだろう。 故に私も趣向を凝らす。和紙に纏わる詩…